リとこう変ってしまったのには、並みいる神妙な聴衆が、あっ! と、あいた口がふさがりませんでした。
 もうこうなっては、こっちのもので、謙遜や辞令なんぞは、フッ飛んでしまいました。
「いいかね、そんなようなあんばいで、なるほど、この尾張の国は英雄の本場には違えねえが、それはとっくの昔のことで、その後になって、古人に恥じねえほどの英雄がどこから出たえ、出たらお目にかかろうじゃねえか。それのみならず、尾張の国は、それほどの英雄を自分の土地から出しながら、それを尊重する所以《ゆえん》を知らねえ。だから、あとから、あとから、ボンクラが出て来るのは争えねえのさ。嘘だと思うなら、尾張の中村へ行ってごらん、どこに、豊臣太閤という日本一の英雄を生んだ名残《なご》りが残っているんだエ。ああして、草ぽっけにして、抛《ほう》りっぱなしにして置いてさ、他国者のこの道庵風情に――十八文の道庵だよ、この十八文風情にお祭りをしてもらって、それを土地の者が珍しがるという有様じゃ、お話にならねえじゃねえか。そのくれえだから、おめえ、近頃は英雄なんていうやつが、この界隈から薬にしたくも出なくなったんだ。地形は昔に変らないん
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