、かく皆様の多大なる御好意に浴すること、返す返すも感謝に堪えない次第で、何を以て、この御好意に酬《むく》いんかに、ホトホト迷い切っている次第でございます……つきましては、拙者が当地に於て、ホンの僅かの日子ではございますが、その間に、多少の見聞によって、感じましたことを、私が申し上げて御参考に供したいと存じます。もとより浅見にして寡聞《かぶん》、お腹の立つような申上げようも致すかもしれませんが、これも他山の石として御聴取を願い得れば、光栄の至りでございます」
 ここまで異状なく、道庵が述べて来ました。やはり、聴衆は神妙で、水を打ったような静かさですから、道庵の方でつい持ち切れず、とうとう力負けがしてしまいました。
 実際、道庵の演説には、弥次が出なければ、演説者自身の方で持ち切れなくなるのです。

         四十八

「さあ、いいかね、これから思いきったところをズバズバ言うよ、腹あ立っちゃいけねえよ、良薬は口に苦しといってね、いい医者ほど苦い薬を飲ませるんだぜ。これから、遠慮なく、思ったところをズバズバ言うからね、苦いと思ったら、道庵は、さすがに医者だと思ってくんな――」
 ガラ
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