十万人と伝えられたそうな。彼等の祝砲に驚いて仏壇を背負い出し、彼等が敬礼のために一斉に剣を抜けば、素っ刃抜き[#「素っ刃抜き」に傍点]と思って身構えをし、鉄砲を一組にして砂の上に立てれば、我に油断をさせておいて不意に襲撃するのだと疑い、葡萄酒《ぶどうしゅ》や、麦酒の空壜《あきびん》を海に捨てれば、毒物を流して日本人を鏖殺《おうさつ》するの計画と怖れ、釣床に疲れている水兵を見て異人は惨酷だ、悪事を為したものには相違なかろうが、ああしてつるして置かなくってもよかりそうに、と眉をひそめたり、姿見鏡を見て向うに一人ありと信じ、蝋燭《ろうそく》一梃を貰い受けて、これを分配して家宝にし、多量の水を軍艦に供給してやり、さてこの水をどうして引きあげるかと見ていると、手桶を要求しないで、大きな鉄索を突き出した、こんな大きな鉄索で手桶が縛れるものかと冷笑しているうちに、その鉄索がゴトゴトとして瞬く間に水を艦内に吸い上げてしまったことに仰天して、これ切支丹の魔術なりと叫んだ、といったような驚異と誇張とが至るところ、日本の人心を怯えさせてるようになっているらしい。
ことに、この熱田明神の御剣には、昔から異国
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