もないから、事の落着は存外単純にして、無事に済んだようです。
そうして、これらの連中、大風の吹き去った後のように、いずれへか引揚げてしまってみると、ひとり取残されたようなお角さん、なんだか狐につままれたように思われないでもない。
お銀様はまだ戻って来ない。
迎えにやった庄公も梨の礫《つぶて》です。お角は、ようやく焦《じ》れったがりました。
そうそうはお嬢様にかまっていられない、子供じゃあるまいし。それに今日は、名古屋で行きつき先がきまっているのだから、やがて庄公が、尋ね出してお連れ申して来るに相違ない、ままよ、これから一足先に名古屋へ伸《の》しちまえ、宿について、ゆっくり待ち構えていた方がいい、たまには、こっちが出し抜いてやるのも薬になる――といったような中ッ腹で、お角は、宮の鳥居前から、名古屋へ向けて、駕籠《かご》を飛ばさせることにきめてしまいました。
一方――お角の見た眼前の光景は、あの通りすさまじいものでしたけれど、また存外、簡単に、型がついてしまったようなものですが、しかし、このホンの一場の活劇の新聞が、忽《たちま》ちにして、恐ろしい伝播力をもって、加速度に拡がって行
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