。
お角も今まで、いろいろの活劇を見たし、自分も触れもしたけれど、こんな凄まじい騒ぎははじめてです。それは刃物こそ用いないけれども、普通人の十倍二十倍の腕力のあろうという連中の暴行沙汰は、すさまじいことの限りというよりほかは、言いようがありませんでした。
それにしても、大関とまでなっている者が、こうも大勢の気を揃えて憎まれることもあるまいものだ――それも物凄いことだと思ったが、これは手の出しようも、足の出しようもありません。参詣の人々も同様、すさまじがって、みすみす、震え上っているばかりです。そうして、充分に袋叩きを加えて、もう当人が動けなくなっているのを見すまして、加害者側の力士共が、また茶店へ戻って来ようとする時、一方からまた同様の相撲連が十余名ばかり息せき切って走《は》せつけて来るのです。すわ、また喧嘩の仕返しかと見ていると、そうではなく、新たに飛んで来た一行の頭《かしら》は、若駒という西の大関で、変を聞いて仲裁に来たのだとのこと。
この新手が、被害者を介抱する、あとかたづけをする――
騒ぎは大きかったけれど、もともと内輪同士のことであり、斬っつはっつに及んだというわけで
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