さんは、それを気の知れないことだと思います。
 今日も、その例に洩れず、お角が神宮に長いこと拝礼の時間をとっている間に、お銀様はふいと、境内の裏へそれてしまいました。
 今にはじまったことではないから、お角も別段にそれを怪しまず、長いこと丹念に祈祷をこらしてから後に、鳥居側の茶屋へ寄って休んでいました。
 ほどなく、お銀様は、ここを目当てに戻って来るだろうし、今日の目的地の名古屋城下は目と鼻の間だし、ふとめぐりあった米友には、宿元をよく言い置いて来たから、万一先着したからとて、万事心残りはない――と、今日はゆっくりした気持で、鳥居側の茶屋に休んでいました。
 けれども、それにしても、お銀様の行動が気にならないではありません。
 鳴海の宿のこともあるし、いったいあのお嬢様は、なんであんなにひとりで、出歩きをなさりたがるのだろうと、不審でたまらないものがあります。
 お角さんには、お銀様の考古癖が全くわからないのです。お銀様もまた、お角さんにその説明の労を取ることを厄介がっているし、また説明しても無駄だと知って、打捨てておくのかも知れません。
「庄公、お前、お嬢様についておいでな、ここは、
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