ほかの神様のより、ずっとお庭が広いから、迷児になるといけないよ」
おともの庄公に向って、それとなく、お銀様見守りの役を言いつけました。
そのあとでお角さんは、なんとなく退屈してなりません。
というのは、この神様が、他の神様よりは広大な構えを持っておりながら、表がかりが、いかにも質素《じみ》なのが、多少お角さんの気を腐らせたのかも知れない。
奉納物なんぞも飾ってないし、旗幟なんぞも見えないし、鳥居の数も少ないし、同じ海道でも、豊川様やなんぞと違って、派手な気分のないのが、お角さんと肌が合わないようです。
「姉さん、ここの神様は、何の御信心に利《き》くの……」
と、茶屋の小娘に向って問いかけて、小娘を挨拶に困らせました。
四十
お角さんは、信心をするのは、神様を大切にすることには相違ないけれども、同時に、御利益《ごりやく》をも授けていただくためのものだと解釈していますから、その神様神様には、おのおの持分があって、あの神様を信心すれば、いざり[#「いざり」に傍点]によいとか、ここの薬師様は眼病に利くとか、あの聖天様《しょうてんさま》は勝負事にいいとかいったよう
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