でしょう。
頼みきったる親分の、道庵先生に頼めば、容易《たやす》く解決するとでも思ったのでしょう。
そこでホッと一息ついたらしいが、それからそれと起るべき難問題――つまり、生きた熊を買う以上には、この鉄檻を併せて買わねばならぬこと、鉄の檻と熊と併せて買ったからとて、この道中、宿屋で置きっぱなしにするわけにはゆかないし、さりとて、伝手《つて》を求めて江戸へ送り届けて置くということなんぞは理が通らないし、買い取った以上、徹底的にこの動物の運命を見届けて行こうというには、どこまでも旅中を伴って行かねばならないこと、それが犬の子や、猫の子であることか、熊の子では、永《なが》の道中を首へ縄をつけて、引っぱって、歩くことはできないから、勢い、この通りにして、鉄の檻へ入れたまま……そうなると、いかに米友が、怪力なりとはいえ、この鉄の檻を背負ったり、かついだりして、永の旅を行けようはずはないから、どうしても車が一つ必要になる、そうなるとこの大八車をも併せて買収しなければならない。そうなると、熊の子をのせた大八車を引っぱって、京大阪から、金毘羅道中《こんぴらどうちゅう》までしなければならないことに立
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