、人様の面倒を見て上げたかったり、頼まれるといやと言えなくなって、あとでよけいな心配をしたり、好きになると、どうしても離れられなくなったり、からきし意気地なしの、お人よしなんですけれど……」
「どうして、そんなどころじゃありません、お雪ちゃんぐらいよく出来た娘さんは、全く珍しいと皆が言っています」
「この山の中では、珍しいんでしょう」
「ははは、お雪ちゃん、なかなかそらさない、そこがいいところだ」
「全くわたしはお人よしね、自分でもそう思いますけれど、強い人にはなかなかなれませんからあきらめています」
「ところがね、その人のいいところに、何ともいえぬつよみがあるのですよ、いわば犯《おか》し難いところがあるんです。たとえば、この山の中の冬ごもりでしょう、ここに集まっている者は、我々はじめ、いずれも、一かどのくせ[#「くせ」に傍点]者でしょう、御安心なさい、自分からくせ[#「くせ」に傍点]者という奴に、たいしたくせ[#「くせ」に傍点]者はありませんからね、それはそうとしても、いずれも寄り集まりの身性知《みじょうし》らずの人間共でしょう、その中で、たった一人の、紅一点たるお雪ちゃんに対して、
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