大菩薩峠
年魚市の巻
中里介山

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)年魚市《あいち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)水勢|甚《はなは》だ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「くさかんむり/毛」、第4水準2−86−4]
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年魚市《あいち》は今の「愛知」の古名なり、本篇は頼朝、信長、秀吉を起せし尾張国より筆を起せしを以てこの名あり。
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         一

 今日の黄昏《たそがれ》、宇治山田の米友が、一本の木柱《ぼくちゅう》をかついで田疇《でんちゅう》の間をうろついているのを見た人がある。
 その木柱は長さ約二メートル、幅は僅かに五インチに過ぎまいと思われます。
 これを甲州有野村の藤原家の供養追善のために、慢心和尚がかつぎ出した木柱に比べると、大きさに於て比較にならないし、重量に於ても問題にならないものであります。
 本来、米友の気性《きしょう》からいえば、道理と実力が許
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