も限りませんわ」
「心細いような、大胆なようなおたよりですね、もしかしての範囲があんまり広いのに、鳩の行程が定まり過ぎています」
「それでもかまいません、もしかして、わたしからの弁信さんへの手紙が、途中で、ほかの人に渡っても、その人が弁信さんへ届けて下さるかも知れませんもの」
「かも知れないことを、たよりになさるなら、いっそ、この鳩が途中下車した時に、ちょうど旅をして休んでいた弁信さんとやらの頭の上へ止まるかも知れません、と言ったらいかがです」
「そんなことも無いとはいえませんのよ」
「いよいよたよりないことですね、ほとんど当てのない海中へ、石を投げ込んで鯛を取ろうというような目あてですね」
「でも弁信さんは別物よ、あの人は、とても勘のいい人ですから、この鳩が、わたしからのたよりを持っていることを、頭の上を飛んで行く音で、ちゃんと聞きわけるかも知れませんのよ」
「ははあ、超人間の働きですねえ、第一、頭の上で飛ぶ音を聞きわけるというのが振《ふる》っていますね――そのくらいなら、眼をあげて見分けてもらった方がいいじゃありませんか」
「ところがね、弁信さんは眼が見えないんですよ、北原さん」
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