度と、背丈のすっきりした形を、鮮かに見ることができました。
十二
暫くしてから夫人は、
「伊津丸――もう寝ていますか」
静かに隔ての襖《ふすま》を開いて見ると、中は薄ら明るい一間、屏風《びょうぶ》が立て廻してある。
「やっぱり、眠っていますね、今の騒ぎも知らないで、そんなによく眠れるのがよいのやら、悪いのやら」
屏風の外に立って、内をのぞくような心持。
全く、今のあれほどの突発事件を、一切知らぬほどに眠っていたとすれば、それは、たとえ病人ではあるにしても、それにしても、たよりが無さ過ぎるほど無神経ではある。ほんとにやる瀬ない、たよりない色を、さっと面《おもて》に浮べたが、また思い直したように、
「ねえ伊津丸、このごろ、人の話にきけば、信濃の国の白骨《はっこつ》の温泉というのが、たいそう病に利《き》くそうだから、わたしは、いっそ、お前をその白骨の温泉とやらへ連れて行って、骨が白くなるほど湯につけて上げたら、少しは利くかと思いました。お前その気がありますか。白骨の湯というのは、ずいぶん遠く、険しく、淋しいところにあるそうだけれど、お前さえ行く気なら、わたしも一
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