緒に行かないとは言いません。どうだね、行く気がありますか、その信濃の国の、白骨の湯というのに……」
眠っていると知りつつ、こんなように口説《くど》いてみたのは、自己安心の気休めを試みてみたのでしょう。ところが、今度は意外にもてごたえがありました。
「お姉様、あなたが、一緒に、いらしって下さるところならば、どこへでも参りますが……」
「おお、お前、目がさめていましたか、そうして、その白骨というところまで行ってみる気になりましたか」
「お姉様の思召《おぼしめ》しなら、どちらへでもお連れ下さい」
「では、お前、白骨へ行きますか」
「はい……」
「といって、すすめたわたしが、お前に素直に同意をされてみると、また二の足を踏みたいような心持。話の上では、どうにでもなるけれど、事実、ほんとうに、病人のお前と、女の身のわたしとが、その白骨まで行くのは、生きながら命がけの旅ではないか知ら、と思われないでもありません」
「御迷惑なことでしょうね……」
「でも、そこへ行ってほんとうに、お前の病気に利《き》き目《め》があるものならば……ずいぶん命がけの旅もしてみましょうけれど、事実ホンの噂《うわさ》だけで、
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