船所では、ちょうどそこに、主人の居合わされないことを残念に思いました。駒井甚三郎は七兵衛を置いて、それからまたここへ戻って来たには来たが、またフラリと立去ってしまったとのことです。
 平沙《ひらさ》の浦の方へ潮を見に行ったか、天文台の方へ、観測に行ったか、どちらへも人を馳《は》せると共に、造船所の職工のおもなる者は、当所の陣屋へ来て見ますと、右のような次第で、乱入者も、マドロスも、影も形もありません。そこでまた、手分けをしてその行方《ゆくえ》を探しにかかりました。
 とうとう夜になったが、行方が知れませんでした。
 夜になると、駒井甚三郎が帰って来てその報告をきいて、安からぬことに思いました。
 それは、この辺の土民にしてはやり過ぎである。誰か尻押しをしたものがあるのだろう、けしかけたものがあるだろう、黒幕にいるものがあるに相違ない、と感じさせられないわけにはゆきません。
 そうしてみると、この地に来た自分の挙動に、注意しているものに二種類ある。一方は充分の好意と、信頼を以て、何かと助力を惜しまない人。一方は何か異端が来て、陰謀の企《くわだ》てをしているのではないかという疑惑と、その背
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