て、こうも仰山に、周章狼狽して、陸上に沈溺し、足も腰も立たない醜態を演じているが、実のところこれも芝居だ。
「面白え、その水祝いというのを生《いき》のいいところで一つ振舞ってもらいてえ」
なんぞと言い出したのが最後――不意に狼狽《ろうばい》したように見せて実は、こういう目に逢ってみたいことを万々承知で、役者を揃え、舞台を廻させておいたかも知れぬ。
ともかくも、あえなく水倒しにされて、路上で陸沈の醜態をさらしている道庵それ自身は、思ったよりも天下泰平で、めでたく市《いち》が栄えたつもりでいるようです。
五十八
東妙和尚が、ある日のこと、与八に向って何を言うかと思えば、
「与八や――わしも永年、諸所方々を歩き廻って来たけれど、まずこの地方の梅干《うめぼし》ほどうまい梅干はないと思うよ」
と言いました。
「へえ、そうでございますかね」
「まず日本一――とは言えるかどうか知らないが、この土地の梅干の味は無類だよ」
「そうでございますかね、この辺は桃の名所だということは、昔から誰も知っています」
「それは、桃の名所としても聞えたところだが、梅は格別だな」
「土地にばかり
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