題にするがものはねえ、この尾張の国から、森槐南《もりかいなん》という大物が出ている、あれは大したものだねえ。詩を作ることはどうだか知らねえが、詩の学問にかけては古今独歩だよ。ここに古今独歩というのは、日本だけの古今独歩じゃねえぜ、本場の支那をひっくるめての古今独歩だ、あいつには降参するよ。よく尾張の国は日本一を出したがる国だ、頼朝、信長、秀吉は事が古い、瀬戸物が日本一で、大根も日本一、踊りも日本一、金の鯱も日本一、美人も日本一、味噌も日本一だといっているが怪しいもんだ。そこへ行くと詩学の造詣に於て、森槐南なんぞは、日本一を通り越して、唐《から》一だから豪勢なもんさ、ああなると道庵も降参するよ――」
脱線もここまで来ると、一座が驚倒絶息せざるを得なくなりました。この座に連なる名古屋の、一流株の名士連といえども、いまだかつて、自分と同じ国に森槐南とかなんとかいう、すばらしい漢詩学者が存在しているということも、いたということも、見たものは愚か、聞いたものは一人もないはずです――
それもそのはず、その当時、森槐南は、まだ生れていたかどうか、生れていたとしても、ようやく立って歩むほどの年ばえ
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