、ああこれだ、先年自分に温かい御飯と、温かい味噌汁をめぐんでくれた好人はこの爺さんに違いない、と見たけれども、爺さんの方では、そんなこと、とうに忘れてしまっているらしい。
「千鳥塚というのはどこですか」
 女の人がたずね返すと、
「千鳥塚は天王山にありますがねえ、この道をこう行って、こう戻らっしゃると……」
 千鳥塚の案内をかなり細かく親切にしてくれる。
「どうも有難う」
 女の人が礼をいう。
「さあ――」
 米友も、ここを立去らねばならぬ、千鳥塚とやらまで、この女性のお供をする義務は断じてない。
 だが、この際、米友もなんだか、急に立去りたくない気持がする。
 千鳥塚を聞いて、それへ行こうとする婦人も、なんとなく連れが欲しいようだ。
 期せずして二人は、最初からの道連れででもあったように、すれつもつれつ……というのもおかしいが、後になり先になって、この寺の境内を出て行きました。
「お前さん、名古屋の人なの?」
「いいんにゃ、名古屋の人じゃねえ、暫く名古屋へ逗留《とうりゅう》してから、やがて京大阪の方へ行ってみるのだ」
「おや、それじゃやっぱり旅中なのね。わたしたちも明日は名古屋へ行っ
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