ことですから、お高祖頭巾に向って特別注意を払ったのではありません。やはり、心願あっての婦人が、お参りに来たものだろうと、深くは気にもとめず、米友は、本堂の前に手を合わせて、拝礼の真似《まね》事をする。神仏を敬すべしということは、出立の最初に当って、道庵先生から教訓されていることではあるし、その礼拝の曲折も、道中、熟練せしめられている。
米友が拝礼している間に、お高祖頭巾の婦人は、御本堂のまわりを一廻りして、地蔵堂の方へ行くらしい。
自然、そのあとを追うように、米友が地蔵堂の以前の自分のねぐら[#「ねぐら」に傍点]をおとずれようとすると、
「もし」
と呼びとめたのはお高祖頭巾の婦人です。
「何ですか」
と米友が円い眼を笠の下から、こちらに向けました。
「あの、海まではまだよほど遠いんでございますか」
「海ですか」
「はい」
「そうさねえ、海はねえ」
米友が、ちょっと歯切れのいい応答ができないでいると、婦人が、
「鳴海潟というのは、いったい、どちらなのですか」
「え、鳴海ガタですって」
「はい、昔の歌や、詩に有名な鳴海潟は、どちらなんですか」
「鳴海ですか、鳴海は……」
ここで、ま
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