、何かの力にグングン押されて行くような気がしないでもなかったのに――今、旅路の不安というものが消滅した身でありながら、憂愁の重いこと――米友は、わが身でわが身がわからないといったものです。
 あの、親切な老夫婦でもいたら、昔のお礼を言っておこうか知ら――それとも言わない方がいいか。昔のお礼を述べるからには、自分というものが、多少飾りになるほどな出世をしているとか、心ばかりの土産物でも携えて来ているとかならばいいが、こんな様子で突然、昔を名乗ってみたところで、また一飯にありつきに来たのか、そうそうはいけねえ、もう行っちまえ、なんぞとあしらわれてはたまらない。
 老夫婦はたずねない方がよかろ。だが、御本堂へはひとつ、その昔、一夜の宿をお貸し下すったお礼を述べずばなるまい。
 こんなふうに考えて、本堂の方へと進んで行くと、閑寂な、人影とては一つも見えないと思っていた境内《けいだい》のお堂の後ろから、ひとり、ふらふらと歩いて来る人の姿をみとめました。
 その人は女であって、お高祖頭巾《こそずきん》をかぶっているということも一目でわかるが、お高祖頭巾をかぶっているという婦人は、世間にいくらもある
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