頤《あご》を二つばかりしゃくり、
「なるほど、なるほど、そんな話も聞きましたねえ、凧に乗って尾張名古屋の金の鯱を盗みに行った奴があるてえ話は、餓鬼《がき》の時分からずいぶん聞いてはいましたが、そいつがその柿の木泥棒という奴でござんしたかい」
「柿の木泥棒と言う奴があるか、柿の木金助だ、貴様にでも聞いたら、少しはわかるかと思ったのだ。あの柿の木金助という奴は、どういう思い立ちで、あの金の鯱《しゃちほこ》を盗もうという気になったのか、またその目的を達するために使用した凧《たこ》というのが、どのくらいの大きさで、どういう仕掛で、どうしてそれに乗り、それを揚げる奴がどうしたとか、こうしたとかいうことを、詳しく知りたいがために、貴様をワザワザここまで連れて来たのだが、こっちに教えられてアワを食うような間抜けじゃあ、話にならん――」
「どうも相済みません、子供の時分から、柿の木から落っこちると中気になる、なんぞとオドかされていたものですから、柿の木の方にあんまりちかよらなかったせいでござんしょう。ですが旦那、その凧に乗ったてえ奴は、作り話じゃございませんかね」
「いいや、まるっきり作り話とは思えな
前へ
次へ
全514ページ中40ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング