すまれて、がんりき[#「がんりき」に傍点]は一層とぼけ、
「そうおっしゃられちまっては一言もございません、何しろがんりき[#「がんりき」に傍点]は、御覧の通りの三下奴《さんしたやっこ》でございまして、先生方のように、字学の方がいけませんから、せっかくのお尋ねにも、お生憎《あいにく》のようなわけでございまして……」
「字学の方じゃないのだ、蛇《じゃ》の道は蛇《へび》といって、貴様なんぞは先刻御承知だろうと思うから、それで尋ねてみたのだ」
「ところがどうも、全く心当りがねえでございますから、お恥かしい次第でございます」
「ほんとうに知らねえのか、のろまな奴だな」
「これは恐れ入りますな、知らずば知らぬでよろしい、のろま[#「のろま」に傍点]は少し手厳しかあございませんか。いったい何でございます、その柿の木てえ奴は……」
 その時に、南条に代って五十嵐甲子男が、いまいましがって、
「ちぇッ、知らざあ言って聞かせてやろう、柿の木金助というのは、あの金の鯱を盗もうとして、凧《たこ》に乗って宙を飛ばした泥棒なんだ」
 そこでがんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵は、
「ははあ……」
と、仔細らしく
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