傍点]を見直せ、あの天守は、下から上まで何層あると思う――」
「そりゃ、下の石畳から数えてみりゃ五重ありますよ、その五重目の屋根のてっぺんに、金の鯱が向き合って並んでいやすよ、南が雌で、北が雄だということでござんす、ああ見えても、雄が少し小《ちい》せえんだと聞きました、そんなことよりほかには、くわしいことはあんまり存じませんね」
「よしよし、それはその辺でいい。それから一つ、引続いてがんりき[#「がんりき」に傍点]、貴様に少したずねたいことがあるのだ」
「改まって、何でございますか」
「貴様は、それ、柿の木金助のことを詳しく知ってるだろう」
「え、なんですって?」
 がんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵は、空《そら》とぼけたような声をして聞き耳を立てながら、草鞋《わらじ》の爪先で、ポンと煙管《きせる》の雁首《がんくび》をたたく。
「柿の木金助の一代記を、お前は詳しく知っているだろうな、がんりき[#「がんりき」に傍点]」
「柿の木金助ですって、そりゃ何でございます、ついお見それ申しましたが」
「知らんのか」
「え、存じません、一向……」
「商売柄に似合わねえ奴だ、貴様は」
 南条にさげ
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