毒です」
「なあに、そんなことがあるものか、貴様の眼のためにはいっち[#「いっち」に傍点]よくきく薬だろう、さあ、もう一番、うんと眼を据《す》えて、あの金の鯱を拝め」
「もうたくさんでございますってことよ、眼を据えて見たって、すがめて見たって、あれだけのものじゃございませんか」
「ちぇッ、日頃の口ほどにない、たあいのない奴だ、いったい、がんりき[#「がんりき」に傍点]ともあるべき者が、尾張名古屋の金の鯱を見るのに、そんな眼つきで見るという法はあるまい」
「だって、旦那、こうして見るよりほかには、見ようは無《ね》えじゃありませんか」
「もっと眼をあいて見ろ」
「眼をあけろったって、これよりあけやしませんよ」
「そんなことで見えるものか」
「見えますよ……」
「なあに、そんなことで見えるものか、さあ、こうして頭を真直ぐに、性根《しょうね》を臍《へそ》の上に置いて、もう一ぺん眼を据えて、金の鯱を拝め」
「そんなことをなさらないでも、がんりき[#「がんりき」に傍点]は盲目《めくら》じゃございませんぜ、これでも人並すぐれた眼力《がんりき》を持った百でござんすぜ」
「そのがんりき[#「がんりき」に
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