日はじめて閑却していたというような形になるのです。
 座敷を隔てたお銀様の間へ伺候《しこう》してみたが、そこに尋ねる人がおりません。身の廻りの物はすべて、そのままにしてありますけれども、御当人がおらず、宿ですすめた茶碗の中の茶もさめきっているのを見ると、お角はなんとなく荒涼たる思いがしないではありません。
 ああ、つい、うっかりお嬢様の御機嫌をそこねたか知らん、この心がかりが、お角ほどの女の胸をヒドク打ちました。
「お嬢様は……」
 誰に聞いてみても知りません。お角はやや甲高《かんだか》い声になって、
「六さん、お前、なんだって、お嬢様におつき申していないんだエ」
 甲州附の従者も叱れないから、自分の従者をドナリつけてみました。
 宿の女中に聞いても知らない――
 お角は、そこで胸を打ちました。
 本来、ちょっとの間、当人の姿が見えないからとて、そんなに胸を騒がせたり、人を叱ったりするほどのことはないのですが、ナゼ、お角ほどの女が、面《かお》の色を変えるほど狼狽《ろうばい》を見せたのか。
「ちぇッ、わたしといったら、自分ながら業が煮えてたまらない、一から十までわかりきっていながら、いい
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