お雪ちゃんにとってはよい機会でありました。
 笠を阿弥陀にして、ふり仰いでいるその人は、いやでもその面影《おもかげ》の全面を上へ向けなければなりません。そこへ、なおこちらに幸いすることには、月光が上から照らしつけてある上に、その当人の腰にさしていた提灯というものが、向うから推輓《すいばん》するように、ほとんど隈なく輪郭を照らしてくれました。
 その時に、お雪は、二重三重の意外に見舞われて、胸を轟《とどろ》かすことが加わってしまいました。
 笠のうちなる人の面影は、今まで全く見なかった人です。ここに冬籠りをして熟しきっている同宿の人たちのうちの一人でないことは勿論《もちろん》――先般来、出入りして、相当の波瀾と印象とを残して行った二三の人たちの姿でもありません。
 全く別な、全く新しい人――一眼見てまぎろう方なき、あざやかな印象――お雪が、一も無く二も無く感じてしまったことは、その人の面影を、どうしても女とよりほかは見ることができなかったからです。
 男の眼では間違いということもあろうけれど、女が女を見る眼には間違いないと、お雪は直覚的に信じてしまったのです。
 さあ――この白骨の温泉の
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