あります。
お雪ちゃんはハッとしました。ふだん、数珠なんぞを携えているわけではないが、その時は、無意識に、自分の手文庫の中に文鎮《ぶんちん》同様にして置捨てにしてあった数珠を、何かのハズミで、手首にかけて、今持って出ていたのだということを、数珠が走り出したので、はじめて気がつきました。
お雪はハッとしたでしょうが、それよりも一層驚かされたのは、足許に物の落された水汲みの主で、落ちたその物を注視するよりは、高欄を見上げることの方が先でした。
見上げるところの三階の亜字の高欄には、たしかに人が立っている。御承知の通りの隈なき月夜のことだから、それを見まごうはずはありません。
但し、その人影が一つであったか、二つであったか、一つ一つが重なっていたのだか、そうしてその人がいかなる人であったかは、わからなかったようです。ただ、天上に人ありという意外の驚異で、しばらく、ふり仰いで、高欄の上から目をはなすことができませんでした。
二人が深夜の楼上にこうしているところを、下から見られたのが、二人にとって幸か不幸かはわかりませんが――下なる人の正体をある程度まで見定めるには、これが上なる人――
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