た。
だが、わざわざこの深夜、水汲みにおいでになったのはどなた、それもお雪の気にかかりました。
今しも上って来る人は、頭に笠をいただいておりましたから、人柄はさっぱりわかりませんが、かなりたどたどしい足どりであります。桶に満たした水が、月にかがやいてさざ波を立てながら銀のように動いているのを見ると、お雪は風流な姿よと思いました。水たまらねば月も宿らずと、口ずさんでやりたいような気分になりました。
でも、その当人が、この宿に冬籠《ふゆごも》りをするうちの誰? ということは、笠がかくしていて判断の余地を与えません。
そのうちに、だらだら坂を上りつくして、右の水汲みは、疲れを休めるためにや、手桶を後生大事に下に置いて、ホッと一息ついている体《てい》です。
その時に、高欄の上から廂《ひさし》へかけて、カラカラと音を立てて、凍《い》てついた土に落ちたものがあります。
お雪はハッとしました。自分の手に持っていた数珠《じゅず》が、スルスルと自分の手首から抜け落ちて、カラカラと廂を走り、力余って、凍てついた大地をまたも、カラカラと走って、桶を置いて休んでいた人の足許まで、走って行ったことで
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