屋の紅売りというのを、つれ出して、炉辺閑話に新しい興を添えようとするでもありません。
 こんなことは、すこぶる違例で、それでも少なくとも池田良斎あたりには引合わしたろうと思われるが、良斎もすまし込んでいるものだから、紅売りという者の正体がまだわかりません。
 かくて、その夜は更けて行きました。

 その夜の白骨谷は満眼の月でありました。
 三階の亜字の欄《てすり》に立って、月にかがやく白骨谷を飽かず見入っているのはお雪ちゃんです。人は全く寝しずまって、物の気というものはありません。
 お雪は、つくづくこれを美しいながめだと思います。
 美しいだけでは言い足りないと思います。なんだか、悲しいような、奥深いような、言うに言われぬ心持で、白骨谷の深夜を、ひとり愛して、やみ難いことがしばしばあるのであります。
 この地上には、人間に隠されたところの秘境が、いくらもあるということを、このごろほどしみじみ感じさせられたことはありません。
 多くの人は、白骨谷は人間の冬来るべきところではないと言いました。土地の主さえも、冬は逃れて里へ帰るところだと言いました。
 それだのに、この美しい景色は、どうで
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