あ、いい気持だ」
こう言いながら、白雲は松林の間を、縦横に歩いて行くと、ふと、人の声がする。一町とは隔たるまいところで……やはりこの松林の中で、松の木の下で、極めて平凡な人間の声が起るのを聞きました。
海も、海岸も、松林も、ここは自分ひとりの専有と信じていたのに、人がいる。極めて、あたりまえの人間の声がする。その声は尉《じょう》と姥《うば》との声でもなく、寿老神が呼びかけたのでもない、あまりにあたりまえ過ぎる人間の声でありましたから、不意であったとはいえ、白雲を驚かすには足りないで、かえって、それに拍子抜けの思いをさせました。
「なあんだ、人がいたのか」
それは軽蔑でもないし、憤怒でもない。極めて軽い意味の失望の程度のものでありました。
それは何を話しているか知れないが、向うの松の木蔭で、人が話し合っている。話し合っているから一人でないことは確かだが、それでも二人以上ではありそうにない。
おや、松の間から海が見えている。
二人だ。二人の前には、何か道具みたようなものが投げ出してあるな!
あれだ、あの黒船が来る前に、黒船の出現によって、トンと存在を忘却してしまっていたが、あ
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