とえ豆のような人影にしろ、人命二つの浮き沈みの方が遥かに大事であった。
 さあ、両個の運命は、どうなった。
 白雲は、いそがわしく、眼を転じたが、幸か不幸か、さいぜんまで見えた両個の人影の二つとも見えない。渺茫《びょうぼう》として人煙を絶することは陸も海も同じようなる鹿島洋《かしまなだ》。
 もしや、両虎共に傷ついて、砂に倒れて万事|了《おわ》ったかと地を低くながめやったが、その屍体らしい物は見当らない。
 では、黒船に見とれている間に、案の如く、両虎は共に傷ついて砂浜に倒れたところを、無雑作に波が来て、さらって行ってしまったのだろう――あとかたもない。
 田山白雲は手の中の珠でも取られたように、なんとなく心に一味の哀愁を覚えつつ、さて、今は全く、ながめやるべき焦点を失い、最初の茫洋たる豪興を回復するまでの間、無意識に砂浜を歩み――足は本能的に南の方、黒船の走って行った方向、決闘の行われていたと同方向に向って、そぞろ歩きの体《てい》でありましたが、やがて砂浜を右にさまようて、またも松原続きの中に入りました。
 海を避けて林に入ったのではなく、この林を抜けて、また彼方に渺茫たる海を見よう
前へ 次へ
全514ページ中318ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング