、多分、白雲は今までに見なかったであろう。檣《マスト》を立て、煙を吐いて行く黒船の雄姿は、田山の眼と、心とを、両個《ふたつ》の人影から奪うに充分でありました。
 黒船――その名が暗示するところは、日本のものではない、日本には海上を走るもので、これだけの存在物は目下あり得ない、と白雲の頭はなんとなく激昂する。
 鹿島洋を横断する不敵な怪物!
 荒海を征服してわがもの顔に行く、その雄姿を、この大洋の上に見せられると、白雲も、外夷を軽蔑する頭を以て、充分の敵愾心《てきがいしん》を呼び起されつつも、なおその姿の懸絶に動かされないわけにはゆかない。どう贔屓目《ひいきめ》に見ようとしても、黒船の雄姿に比ぶる和船は、巨人と侏儒《こびと》との相違である。いかに軽蔑しようとしても、眼前を圧する輪郭は争われない。
 田山白雲は、一種の感激と、いらだたしさを感じて、黒船の姿に見とれ、決闘の場に赴くべく、丘を下らんとした砂丘を下らずして、しばらく立ち尽すのやむを得ざるに至りました。
 駒井甚三郎ならば、この徒《いたず》らな感激と、敵愾と、いらだたしさから超越して、まずこの黒船の型が近代の何式によるかを観察し、
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