》を聞いていると、金城湯池《きんじょうとうち》をくつがえすような気焔だけはすさまじい。
「家康が、特にこの名古屋の城に力を入れたのは、何か特別に家康流の深謀遠慮があってのことに相違ない」
「僕は、さほど深謀遠慮あっての取立てとは思わない、単に、清洲《きよす》の城の延長に過ぎないではなかろうかと思う」
「それだけじゃあるまい」
「附会すればいくらでも理窟はつくが、清洲なら清洲で済むのを、あそこは水利が悪い、大水の時には、木曾川が逆流して五条川が溢《あふ》れる、といったような不便から、最寄《もよ》りの地を物色して、ここへ鍬入《くわい》れをしただけの理由だろうと思う、ここでなければならんという要害の地とも思われないね」
「織田信長が生れたところが、この城の本丸か、西丸あたりにあたるというじゃないか。そうしてみると、やっぱり天然に、大将のおるべき地相か何かが存在していたものかも知れない」
「いずれ、名将や、名城が出現するくらいの土地だから、何ぞ佳気葱々《かきそうそう》といったようなものが、鬱勃《うつぼつ》していたのだろう」
「しかし、家康のことだから、ここを卜《ぼく》して新藩を置くからには、や
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