様、御無事で結構には結構でございますが、角はずいぶんお恨み申し上げますよ。どうして、わたしのところをまあ、おことわり無しに出ておしまいになったのでございますか。お嬢様のためには、わたしはああしてあれほど、もうできます限り御機嫌に逆らわないように、お世話申し上げたつもりでおりましたのに、何が御不足で、おことわり無しにお出かけになってしまったのでございますか。お嬢様に出し抜かれた、わたしの身にもなって御覧下さいまし、口惜《くや》しいやら、辛《つら》いやらで、あの当時は、お嬢様に食いついてやりたいほどにお恨み致しましたが、それも、こっちの心がけが悪かったせいだと観念致しました。お出かけになるならお出かけになるように、一言そうおっしゃって下されば、何の事もございませんのに、角だってあなた、お嬢様の首に鉄の輪をはめてどうしてもお引留め申さねばならぬとは申しません、また、わたしたちが鉄の輪をかけてお引留め申したって、お引留め申すことができるほどのお嬢様でもございますまい。ほんとに、出し抜かれた当座は、わたしの気象として、腹が立って、腹が立ってたまりませんでしたけれど、こうしてお嬢様にお目にかかって
前へ 次へ
全514ページ中241ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング