この石工をお銀様は一間に招じて、そうして自分が手ずから認《したた》めたらしい、一枚の絵像を取り出して――無論、いかなる場合でも、お銀様は、人と面を合わせるに、覆面というものを外《はず》したことがありません。
甲府から呼んだ老石工に、一枚の絵像をつきつけたお銀様は、まず絵像そのものだけで、老石工を驚倒させてしまいました。
藤原家の勢力のほど、その家庭内の風評、ことにお銀様というものの存在について、この老石工は熟知している。さればこそ、こうして、迎いを受けると、時を移さず親方が出向いて来たものに相違ないが、この絵像をつきつけられた時は、さすがの老石工が唖然《あぜん》として、身ぶるいをしてしまいました。
右の絵像に現われた一種異様なグロテスク。これは多分お銀様の創作というものでありましょう。
今まで、神社仏閣の表に、多くの伝説あるグロテスクを刻むことに慣らされた老石工も、この画像には驚かされました。
「お嬢様、これはいったい、何様なんでございますか。わしが若い時分日光へ参りました時、あれにお若様というのがありましたが、そんなんでもございません。箱根の姥子《うばこ》には山姥の石像が
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