る。
自然を見ることによって、人事に想到し来《きた》るから、それで泣けるのでありましょう。金峯の山を見れば、その眼下に甲府の町を見ないわけにはゆかない。甲府を見れば、東に蜿蜒《えんえん》として走る大道――いわゆる甲州街道、門柱としての笹子、大菩薩の嶺々《みねみね》を見ないわけにはゆきますまい――
東に走る大道を見れば、自然、そこで、ついこの間まで暫くの間、数奇なる転変をつづけていたところの生活を、思い出でないという限りはありますまい。
屋敷にいると、人間の呪詛《じゅそ》で固まったお銀様が、高いところへ来ると、少なくとも人間界を下に見るか、或いは水平線に見ることができる。その上に、人間に比較しては悠久性を有する生命のただずまいが存在しているということを見る。
そこで、胸が開けるのでしょう。胸が開けると、堰《せ》かれていた涙が切って落されるものと見える。
そこで、お銀様は人を恋うて泣く。
かつて、愛し且つ虐《しいた》げた美貌の女中お君という女が恋しくなる。お銀様は多分、お君の最期《さいご》をまだ知ってはいまい。あの子はどうしたろう――という半面には、嫉《ねた》みと、憐みとが纏綿
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