逃げ帰り、それがためにかえって、お銀様の侮蔑と、暴虐とを高ぶらせたに過ぎませんでした。
だが、人間はいつもそう張りきった心で、精髄を涸《か》らし尽すようにばかりは出来ていないと見え、侮蔑と、暴虐と、呪詛《じゅそ》の塊《かたまり》であるらしいお銀様という人も、時とすると、再び以前のように泣きくずれることがあります。
小春日和に、どこともなく裏山を歩いて、森を越え、村を越えて、高いところへ出ると、そこに腰を下ろして、じっと山河を見つめているお銀様の眼から、ひとりでに涙の泉の湧き溢《あふ》るるのを見ないということはありますまい。
そこで、お銀様は、甲府盆地に見ゆる限りの山河をながめます。後ろは峨々《がが》たる地蔵、鳳凰、白根の連脈、それを背にして、お銀様の視線のじっと向うところは、富士でもなく、釜無でもなく、おのずから金峯《きんぽう》の尖端が、もう雪をいただいて、銀の置物のようにかがやくあたりでありました。
ことに、金峯の山が、お銀様の嗜好に適するというのではなく、この地点に座を構ゆれば、おのずから、視線がそこに向くのであります。そこでお銀様は、日の暮るるまで山を見つめて泣くことがあ
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