圧して、海と持合いに、この平野がのびているという感じは豊かである。
見渡す限りは、その大河の余流を受けた水田で、水田の間に村があり、森があり、林があり、道路があって、とりとめのない幅の広い感じを与えないでもない。
米友が件《くだん》の田疇《でんちゅう》の間を、木柱をかつぎながら、うろついて行くと、楊柳の多いところへ来て、道がハッタと途切れて水になる。
大抵の場合は、それを苦もなく飛び越えて、向う岸に移るが、これは足場が悪い。距離に於ては、躍《おど》って越えるに難無きところでも、辷《すべ》りがけんのんだと思う時は、彼は気を練らして充分な後もどりをする。
葭《よし》と、蘆《あし》とが行手を遮《さえぎ》る。ちっと方角に迷うた時は、蘆荻《ろてき》の透間《すきま》をさがして、爪立って、そこから前路を見る。出発点は知らないが、到着点の目じるしは、田疇の中の一むらの森の、その森の中でも、群を抜いて高い銀杏《ぎんなん》の樹であるらしい。
こんなふうに、慣れない田圃道《たんぼみち》を、忍耐と、目測と、迂廻《うかい》とを以て進むものですから、見たところでは、眼と鼻の距離しかないあの森の、銀杏の目
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