。
木曾でお目にかかった道庵主従、いつか知らず、海道方面へ出て来て、今宵は、ここでこういう催しをすることに相成っている。
道庵先生が、いかなる動機で、こういう催しをするようになったか、それをよく聞いてみれば、必ずや、なるほどと頷《うなず》かれるに足るべき先生一流の常識的の説明が有り余るに相違ないが、それを聞いていた日には、夜が明けるに相違ない――
とにかく現実の場合、祭典の体《てい》も整い、意義も分明してきて、さて改めて本格の儀式に及ぼうとする時、疾風暴雨が礫《つぶて》を打つ如く、この厳粛の場面に殺到して来たのは、天なる哉《かな》、命なる哉です。
六
疾風暴雨というのは、いよいよ、これから祭典も本格に入ろうとする時に、この場へお手入れがあったことです。
ここは、尾州名古屋藩の直轄地ですから、お手入れも、たぶんその直轄地からの出張と思われます。今日今宵、この異体の知れぬ風来者によって、一種不可思議なる祭典が、この地に催さるるということを密告する者あってか、或いは最初から、嫌疑をかけてここまで尾行して来たか、そのことは知らないが、かねて林間にあって状態をうか
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