ないものと割引をしても、この生一本の男には忘れんとしても忘れられない、癒《いや》さんとしても癒しきれない、魂の片割れを死なして、往きて帰らぬ旅路に送りこんでしまっておいて、そうして今、自分だけひとり二度と故郷の山をまともにながめられるものか、ながめられないものか――
碓氷峠《うすいとうげ》の風車の前で、東を向いてさえあの通りだ。
年甲斐もない道庵――その辺の事に察し入りがないというのはどうしたものか。たとえ、相手方から、あれが伊勢の国の山かいと聞かれても、なんのなんのと、そこは、お手のものでいいかげんにごまかして、感傷転換をやるほどの匙加減《さじかげん》はあってしかるべきものを、もう取返しがつかない。
「危ねえよ、友様、そう前へ出ちゃあぶねえよ、落っこちると下だぜ」
といって道庵は、窓から身をのり出した米友を、しっかり後ろから抑えました。
抑えたけれども、米友の力と、道庵の力とでは、相撲にならない。
「うーむ」
血走る眼に鈴鹿山を睨《にら》めて、米友はまた一段と乗り出しました。
「あぶねえよ――友様、冗談じゃねえぜ、落っこちると下だよ」
道庵は、ほとんど必死で米友を抑えました
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