が、米友はそれを顧みず、
「うーむ」
もう一寸前へのたり出す。
「友様、しっかりしな、ウソだよ、ウソだよ、ありゃ伊勢の国じゃねえんだ、まあ、こっちへ来な、こちらの方の、もっと景色のいいところをただで見せてやるから」
と言ったが、もう追っつかない。今更そんな子供だましの気休め文句を言ったって、焼石に水です。
「うーむ」
この時、もう胸から上が、窓の外に出ている。
「いけねえ」
道庵は必死にしがみつきました。
それを物ともせずに、米友は、じりじりと窓の外へ身を乗り出す。その眼は鈴鹿山から伊勢の海あたりをながめながら、その面《かお》は朱のように赤くなって、そうして、口から泡を吐いている。
どうするつもりだ、何かの無念と、過去の惨酷《さんこく》なる思い出のために、この男は正気を失って、ここから落ちることを忘れているらしい。道庵の言う通り、落ちれば下にきまっている。いくら米友の身が軽いからといって、上へ落ちる気づかいはない。
落ちたところ――かりにこの出来事が、天守の五重目の上とすれば、石垣が東側の地形《じぎょう》から土台まで六間五尺あって、北西の掘底から、土台までは十間あり、天守は
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