たかね、我々はあそこにいても、一向お化けというものを聞きもしなかったし、無論、見もしなかったが、いったい、そのお化けというのは、どんなお化けですか」
「いくつも出るそうですが、そのなかで、高山の淫乱後家《いんらんごけ》と、男妾《おとこめかけ》の浅公……」
と四十男が浅黒い面《かお》に、思いのほか白い歯並を見せてニヤリと笑いました。
「ははあ、高山の後家さんと、なにがしの若者、それが化けて出るというのですか」
「そりゃ見た人があるから、たしかなもんですが、そのほか、いろいろな化け物が、この冬は白骨に巣をくっているってますから、こちらからは誰も参りません。尤《もっと》も、ふだんでさえ冬は人の住まない土地ですから、行かないのはあたりまえですけれど、今度のお化け話はこの夏の終り頃からはじまりました」
「そうですか、拙者は、ちょっと道に踏み迷うたという形で、あの温泉場へ参り、直《ただ》ちにこうして引上げて来たのですから、お化けにお目にかかる暇《ひま》が無かったものと思われます、もう少し逗留《とうりゅう》していたら、そのお化けが挨拶に来たかも知れません」
 兵馬が存外、あきたらず受け流すのを、一同
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