でしまいました。
 かくて、思う存分に、その湯にひたっていると、猟師は、そのあたりの板小屋に腰を卸《おろ》して網を張りにかかるらしい。
 網を張るというのは、こうして待構えていると、猿やその他の動物が、湯につかりに来ることがある。それを見ていて、あるものは手捕りに、あるものは銃殺、あるいは槍殺もするらしい。稀れには弓矢も用いることがあるらしい。
 ここで、思うさまの悠浴《ゆうよく》を試みた兵馬は、身心一層の爽快を覚え、網を張る猟師とは別れて、ひとり目的地へと急ぎます。
 今は路傍に美しい高山植物のたぐいこそ咲いてはいないが、山林、谿流《けいりゅう》、すべてが清麗で、顧みれば、四周《まわり》の深山の中には、焼岳の噴煙がおどろ髪のように立ちのぼる。途中一つ信州松本への廻り道があっただけ、安房峠《あぼうとうげ》を越えてしまえば、平湯《ひらゆ》までは二里に足らぬ道。
 前途の不安が全く除かれてみると、深山を楽しむの快感が身に沁《し》み渡り、いい知れぬ勇気が湧いて来る。
 兵馬は、この快感と、勇気とをもって、安房峠を打越えながら、「万法一に帰す、一何れに帰す」ということを考えさせられました。これ
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