ここの白骨温泉の木曾踊りのことが話に出ました時、あなたは伊那の飯田には、あれに負けない伊那踊りがあるといって御自慢になりましたでしょう、その伊那踊りですか、伊那節ですか、それを一つお聞かせ下さいな。ね、先生、ここでそれを歌っていただいてもようございましょうね」
「ははあ、伊那節をわしにうたえとおっしゃるんですか、北原の無粋を見かけての御註文ですね。もとより歌ったり踊ったりは、こちらのガラじゃありませんが、尤《もっと》もガラで歌ったり踊ったりするわけじゃない、過ぐる夏には、とてもすごい体格をした所謂《いわゆる》イヤなおばさんなるものが存在して、すごい体格は体格ながら、肉声は甚《はなは》だ美にして、よく音頭取りをつとめ、白骨温泉の女王の地位を贏《か》ち得ていたというくらいですから、ガラが違っても歌えない、踊れないという限りはないが、拙者なんぞは無茶です。ただ、伊那節の歴史と文句だけは、木曾の御岳山《おんたけさん》にも負けないものがあります、なかなか雅趣があっていいのがあります……だが、わが伊那の、天下に向って誇るべきことは、そんなところにあるのではない、天竜峡の絶勝と並んで、わが伊那の地が
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