北原賢次が、むらむらとしてお雪ちゃんの面《かお》を見てしまいました。これではせっかくバツを合わせようとした彼女のきりまわしが何にもなりません。そういう事に一向に頓着しないお雪ちゃんは、今度は北原の方に向いて無邪気な笑顔、
「北原さん、あなたも、ずいぶん、喧嘩っ早いようなお方ですけれど、戦《いくさ》なんぞにお出になるのはおよしなさい」
と言いました。
「だが、お雪ちゃん、おたがいに白骨温泉の中へ白骨を埋めに来たわけでもありますまい、いつか、それぞれの国と仕事とに返らなければならないでしょう」
「そう言えば、そんなものですけれど……どうかすると、一生こんなところで暮らしていたいような気持もしますね」
その時、北原は、「お雪ちゃんのように相手さえあればね」と言ってやりたい気分になって、その言葉が咽喉《のど》まで出ましたけれど、初対面の何とも知れぬ隣室の人に気を置かれて、だまって、思わず村田と面《かお》を見合わせましたが、やはり、その辺にお気づきのないお雪ちゃんは、
「ねえ、北原さん、あなたのお国は、やはりこの信州の伊那《いな》だとおっしゃいましたが、あちらのお話をお聞かせ下さいませ。いつか
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