山間の僻陬《へきすう》にありながら、尊王の歴史に古い光を持っていることです」
 北原は一種の昂奮を感じながら、信州伊那の郷土を論じ、天竜峡のことに及んで、ぜひ一度、天竜峡を見においでなさい、御案内いたしましょうと言って、はじめて相手が、相手ということに気がついて、まずい面《かお》をするのを、お雪が傍からとりなして言いました、
「うちの先生は風景を御覧になることはできないけれど、風景のお話を聞くことは大好きで、風景のお話をして上げると、それが忽《たちま》ちその夜の夢になりますそうで、よい話を聞かせていただけばいただくほどよい夢が見られる、そこで、わたしも、なるべく先生によい夢を見せて上げるように、知っているだけのお話はして上げたり、本を読んで上げたりするつもりですけれども、わたしだけでは、とてもその材料が足りません」
 お雪としては、それを単純なとりなしのつもりで言ったのでしょうけれど、北原は単純に聞き捨てることができませんでした。
 この二人の間は何だ。
 炯眼《けいがん》な北原は早くも、このバツの合わない二人の呼吸を見て取らないわけにはゆかないと共に、いよいよ解しきれないものが、頭の
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