琴《つくしごと》、三絃《さみせん》なんど盗み来つ、この両種《ふたくさ》をお夏に授けて、ひかせもし、歌はせもして、時なく酒の相手とす。只この遊興のみならで、黒三《くろぞう》が宿所にをらぬ日は、お夏を夜行太が妻にしつ、又夜行太がをらぬ時は、黒三が妻にもす。たとへば是《こ》れ両箇《ふたつ》の犬の孤牝《こひん》を愛《め》づるに相似たり、浅ましきこといふべうもあらねど、さすがに我児のいとほしければ、お夏はこれすらいなむによしなし。逃《のが》れ去らんと欲すれども、夜行太と黒三と、かはり代りに宿所にをれば、思ふのみにて便りを得ず、よしや些《ちと》の隙《すき》ありとても、山深くして道遠かり、いづこを人家《さと》ある処ぞと、予《かね》て知らねばなまじひに、走り出で路に迷うて、程もなく追詰められ、行戻さるることしもあらば、わが上のみか球之介《たまのすけ》が、命も保ちがたかるべし、畜生にだも劣る山賊の、しかも良人《をつと》のあだかたきなる、二人の為に身を涜《けが》されて、調戯《なぐさみもの》となれる事、もともといかなる悪業ぞや。好もしからぬ夫でも、ぬしありながら岐道《ふたみち》かけて、瀬十郎ぬしと浅からず、
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