無下の振舞だと、北原もそれは嫌いだし、お雪ちゃんのひとがらから言っても、こんなことをさせて置くのは惜しい、と感ぜずにはおられませんでした。
あわてたな――ちょうど我々が来訪して来た時に、お雪ちゃんはここまで読みすましていたのだ。そこへ不意に我々のおとないを聞いて、あわてて栞をはさむ余裕がなく、ついムザムザと中身の本紙を折り込んでしまったので、これはお雪ちゃんの日頃ではない、非常の際の、ただ一度しか試みてはならない失策なのだ。ふだん、こんなことをしている子ではない、というように北原が、忽《たちま》ちお雪ちゃんのために有利な弁護の道を発見してしまいました。しかし、それが後になって、今まで、絵だけ見て、飛ばして行った本文を、そこから読むともなしに読み出してみると、
[#ここから1字下げ]
「既にして夜行太《やぎやうた》等は、お夏が儔《たぐひ》多からぬ美女たるをもて、ふかく歓び、まづその素生《すじやう》をたづぬるに、勢ひかくの如くなれば、お夏は隠すことを得ず、都の歌妓《うたひめ》なりける由を、あからさまに報《つ》げしかば、二箇《ふたり》の賊は商量《だんがふ》して、次の日、何れの里にてか、筑紫
前へ
次へ
全514ページ中117ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング