座敷は別になっていますから……かまいませんけれど、とにかく、お遊びにおいで下さいまし、あなたお一人でも、村田さんをお連れになってもかまいません」
「では、後刻上りますよ」
 こうして、お雪は火を持って、三階の自分の部屋へ帰って参りました。

         十六

 お雪ちゃんが帰ったあと、北原賢次は、黍《きび》を煮ている鍋を下ろして、大鉄瓶《おおてつびん》とかけかえ、小鳥籠を前にしてぼんやりと、火にあたっているところへ、村田寛一が、胸に弥蔵《やぞう》をこしらえながら、ブラリとはいって来ました。
「どうしたエ」
「今ね、お雪ちゃんが来たところなのだ、珍しいから無理に引きとめて無駄話をしてみたところさ」
「それは珍しかったね」
「そればかりじゃない、話が少しハズンだものだから、いずれそのうち、こちらからお雪ちゃんのところへ押しかけて行ってもいいかエ、と聞いたら、いいと言ったよ」
「何だい、つまらない、悪いとは言うまいさ。しかし……」
「そうさ、穴蔵のような冬の白骨の天地に、こうして一つ宿をしているのだから、おたがいに、誰がどこへ押しかけたって不思議はないはずなんだが、今までお雪ちゃんの
前へ 次へ
全514ページ中103ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング