にしたところで、三百本と見ても知れたものだ。二分なら喜んで売るだろう。そうして買ったからとて、なにも強《し》いてこっちへ引取らなくてもいいのだ、相当の地代を払って、そのまま置据えにしてもらって、そうして、実《み》はこっちで取って、それからが商売にかかるという寸法よ」
「だって方丈様、土地でも、実を取って売ったところで引合わねえから、伐って桑を植えたり、桐を植えたりしたがるのでしょう、それをわざわざ大金を出して買って、置据えにしたって、いよいよ割に合わないねえ」
「そこだ――そこが商売の秘伝《こつ》なのだ与八、いいかえ、さっきも言う通り、土地の人は、そんな特別の梅を持っていながら、その味がわからないのだから、まずその味をわからせるようにするのだ、土地の人にわからせるようにするのじゃない、世間一般に向って、吉野の梅は旨《うま》い、天下一品だ――ということを知らせるようにすると、買い手が多くなる、買い手が多くなって、なるほどこいつは能書通りうまいわいということになると……名物にうまい物無しというが、この吉野村の梅ばかりは格別だ、あの辺は俗に青梅在といって、梅を名乗っているのは、なるほど、地味そのものが梅にかなっているのだ、梅干は青梅在の吉野村の梅干に限る、というようなことになれば、年々、梅干の需要が殖えて、江戸はもとより、日本中へ売れるようになる」
「なるほど……」
「そうだろう――土地で食ったり、青梅あたりへ売るだけでは数の知れたものだ、これが馬に積んで、どんどん江戸まで出るようになってごろうじろ、あの山と谷をみんな梅の木にしたって、まだ足りない。そこでひとつ、お前とのり[#「のり」に傍点]になって、その梅干屋を開業してみたいのだが、どうだな、わしが金主元で、お前が製造主任、お松さんが、販売兼支配人ということになれば、この商売|外《はず》れっこなしだね。万一、損をしても、今いう通り、損をしても元だから心配をするものはないのだ。どうだ、そういうわけで、与八、お前がひとつ梅干の製造方を引受けてくれないか」
「引受ける段ではございません、方丈様のおっしゃることなら、何だって、いやとは申しませんが、梅干の製造法は、わしはまだよく知らねえですから、ひとつ、誰かに聞いて勉強してから、お引受けをした方が、たしかじゃあござんすめえか、せっかく、製造元を引受けたって、下手にやって腐らかしたり、まずく漬けてしまった分には、済まねえことだから」
「うむ、そのこと、それも心配しなさんな、その梅干の製造法も、わしが、ちゃあんと心得ているから、秘伝をお前に伝授してやる、お前は、それに従って、近所の若者でもかり集めて、働いてもらったりすりゃあいいのだ」
東妙和尚から、この相談を持ちかけられた与八は、一応納得して、その委細をお松に伝えるべく、机の家の本家まで帰って来ました。
五十九
お松はその日、子供を帰したあとの講堂(もとの机の道場)を整理していると、ふと外の庭でする子供らの話に耳を傾けさせられました。
のぞいて見ると、十歳を頭と思われるくらいの男の子が五六人、いずれも背中に乳呑児を結びつけて、子守を仰せつかりながら、桜の木の下で石蹴りなんぞをして、遊んでいるところであります。
寺子屋としての日課が終ってからでも、この校庭が遊び場所になるのは毎日のことのようなものですが、今日は、お松が特別に注意を向けさせられたのは、子供たちの無意識な会話《はなし》ぶりでありました。
「お前んちへは、また赤ん坊が出来たのかえ」
「ああ」
「貧乏のくせに、そんなに子供ばかり出来ちゃあ、食わせるに困るだろう」
「困りゃしないよ、赤ん坊はまだ何も食やしないもの、乳ばかり飲んでいるよ」
「馬鹿、今は乳ばかりだって、いまにでかくなればおまんまを食うぞ」
「そりゃ、そうさ」
「その時になると、食わせなけりゃならねえ、お前のうちじゃ食わせられるかい」
お松はそれを聞いて、ずいぶんマセきった言い分だと思いました。だが、そのマセきった言い分も、当人は無邪気で、家庭の口吻《くちぶり》がさせるわざだと考えないわけにはゆきません。家庭の口吻は、つまり生活の切迫であります――お松は箒の手を休めて、それを聞いていると、
「おらの家じゃ、貧乏のくせに子供ばかり出来やがって、食わせることができねえから、こんど出来たら間曳《まび》いちまうと言ってたよ」
「間曳くというのは何だろう」
「間曳くというのは、赤ん坊が生れると一緒に、つぶしてしまうことだとさ」
「つぶす?」
「うむ」
「つぶすというのは、どうするんだろうねえ」
「殺しちまうんだよ、生れると一緒に、息のできねえようにしちまってさ」
「ずいぶん、悪いなあ、生きて生れたのを殺しちゃうなんて」
「だって、仕方がねえさ、生かして置
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