いが、その時の調子で、眼先の景気だけに取られるのはよくない」
「そうですね、いま、割が悪いと思っても、直ぐにまた、よくなることもありますね、今時、ずっと景気がいいからといって、それが幾年も幾年も続いていられるかどうかわかりましねえ」
「そうだとも、今、梅よりも桑がいいからといって、あの見事な梅の老木を伐《き》り倒し、桑を植えかえちまうなんていうのはほんとうに、眼の前だけの勘定だ、きっと、いまに後悔する時があるよ。そればかりじゃない、この裏の成木というところの山を掘れば、いい石灰が出るというんで、昔は江戸のお城普請にまで御用になったものだが、それをいい気になって、近頃は山師が入りこんで、その石灰山を買占める、正直な山持たちは、山の売値がいくらか割がいいというところに釣込まれて、山師に山を売ると、山師が黒鍬をつれて来て、山を掘っくらかえしてしまう、美しい天然の形をしていた山が、デコボコのギザギザ山になってしまって、それからは何の木を植えても育つことではない。杉を植えたり、雑木を植えたりしておけば、ちょっとの間には目に見える儲《もう》けはないとしても、何十年、何百年の間に、植えかえ植えかえすれば、その利益はのべ[#「のべ」に傍点]にしてみると大したものだ、見たところも、山は山らしい厚味があって、土地の人情ともすっかり合った風景になるのだが、ああして石灰山を売り飛ばしてしまっては、一時のかす儲けばかりで、未来永劫に廃《すた》れ山になってしまう。近頃は、この武蔵野にも美しい雑木林がだんだん減って、殺風景な桑畑ばかりふえる、梅なんぞもその通りだ、流行物に心をうつして、古来の風土にかなった名物を失うと、もう取返しがつかないものだ。そこで与八――お前に相談だがな」
と東妙和尚から、与八殿がかなり長い前置附きで相談を持ちかけられたところは、いつぞや、石の地蔵をきざみながら、地蔵和讃の口うつしを受けた、彼岸桜の大木の下の芝生の上です。
「お前に相談というのはほかでもないがな、あんまり、あの梅の亡びることが惜しいものだから、ひとつ、わしが、もくろみ[#「もくろみ」に傍点]を立ててみたものだ。これからひとつ、そのもくろみ[#「もくろみ」に傍点]によって、お前と乗《のり》になって、一商売をはじめてみようと思うのだが――」
「わしゃ、あんまり商売は上手でねえんでしてなあ」
と与八が謙遜する。与八があんまり商売が上手でないことは、自分が謙遜するまでもなく、東妙和尚がよく呑込んでいるはずだ。東妙和尚とても、あんまり商売に得手であるまいと思われる。どのみち、この二人が片棒ずつかついで、ありつこうという商売は、士族の商売よりもあぶないものかも知れないが、さりとて、和尚は世間を知っている、それに坊主丸儲けということもある、存外、妙腕を揮《ふる》って、半ぺん坊主の向うを張るつもりかも知れない。そこで、与八が謙遜するのを、東妙和尚が抑えて、
「損をしたって元《もと》という商売だから、心配しなさんな」
と慰め、
「うまく行けば坊主丸もうけだ。実は、わしがあの梅の木を伐《き》るのを見て、惜しいと思って意見をしたが、こんな物の道理はなかなか、眼先ばかり見ている当世人にはわからないから、いっそ、こっちが上手《うわて》を行って、一儲けをして見せてやって、それからのことだ。そこがそれ、小人は利にさとるとかなんとかいって、目の前へ儲けてやって見せてからでないと、お説法を信用しない。そこで、わしが考えついた大銭儲けというのは、まずこうだ、与八、聞いてみてくれ」
 東妙和尚も、芝生の上の虎の子石へ腰を下ろして、両膝をかかえながら、与八に向っての、金儲け話。
「与八、聞いてくれ、あの梅の木を伐らせないように、残らずこっちで買占めるのだ」
「へえ、あの吉野村の梅の木を、残らず買占めるんですか、何千本、何万本てあるやつを、そっくり買占めるんですか、買占めて、どこへ持っておいでなさる」
と与八が、仰天してしまいました。それを東妙和尚が説明して言うことには、
「残らずったってお前、あの村の梅をみんな買占めるという日には大変なものだ、そういうわけではない、なかには、先祖伝来の庭木だから、また多年手入れをよく仕立てたものだから、という理由で、大切に育てているところが大分ある、無茶に伐り倒して薪にして、そのあとへ桑なり、除虫菊なりを植えようというのは、実は村内にそうよけいあるわけじゃないから、それを、相当の価格で、買占めておくまでのことだ、老木の惜しい奴を二三百本も買っておけば、大体話がつくのだ」
「一本いくらで売りますかね、値段よりも人夫が大変でござんしょうなあ、一本でも持って来て、こっちへ移し植えようというには、五人や十人の手間じゃありませんぜ、とても費用がかかりますねえ」
「かりに一本、二分ずつ
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